2016/06/21

季節を抱きしめて




【発売】ソニー・コンピュータエンタテインメント
【開発】シュガーアンドロケッツ、プロダクションI.G
【発売日】1998年7月23日(PlayStation the Best版:2001年8月16日)
【定価】4,800円(PlayStation the Best版:2,800円)
【媒体】プレイステーション用CD-ROM
【容量】CD-ROM2枚組
【ジャンル】アドベンチャー
【周辺機器】アナログコントローラ対応(振動のみ)




「やるドラ」とは何だったのか


【ストーリー】
 樹々が芽吹き、花咲く春。山間の地方都市に住む主人公は、1年間の浪人生活の末、地元の大学へ通う事になった。大学へ続く坂道を歩く彼の隣には、予備校時代からの友人トモコがいる。暗く寂しい浪人生活をクリアできたのはトモコのおかげだと主人公は思っているが、自分の事を恋人だと思っている彼女に少々迷惑もしているのだった。そして、大学に入って間もないちょうど桜の花が咲き始めた頃。



 大学から出て来た主人公とトモコは、1人の女の子が構内の桜の樹「悲恋桜」の下で倒れているのを見つけた。駆け寄って助け起こした主人公は、彼女の顔を見て思わず息を飲む。女の子は彼が高校の時に交通事故で亡くなった片想いの相手「麻由」にそっくりなのだ。

 しかし、目を覚ました彼女が主人公にくれたものは、顔面への強烈なキックだった…。ようやく目が覚めた彼女だが、名前を聞いてもどこから来たのかを聞いても「分からない」と首を横に振るばかり。結局、主人公は彼女とほとんど話もできず別れてしまった。その夜、バイト先のタウン誌編集部。明かりの消された編集部内で1人、原稿を書く主人公。彼の頭の中には、昼間出会ったあの子の事が消えないままでいた。「あの子は今頃どうしているんだろうか?」意を決した様に席を立つ彼は…。


【概要】
 「みるドラマから、やるドラマへ。」のキャッチコピーで98年にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)が発売した「やるドラ」シリーズ4作の第2弾。アニメーション制作会社のプロダクションI.Gによるフルアニメーション&フルボイスのクオリティは非常に高い。本作はシリーズの中で最初に開発されたものの、プロモーション的な理由から発売第1弾ソフトは『ダブルキャスト』に譲っている。やるドラシリーズは当初、『フォーシーズンストーリー』という1本のソフトとして企画されていたため、各作品ごとに季節と花が設定されている。本作は当初『サクラサク』というタイトルだった事もあり、舞台の季節は「春」、象徴的な花は「桜」。


【ゲームシステム】
 フルアニメーション&フルボイスで進行するアドベンチャーゲーム。プレイヤーは途中で表示される選択肢を選び、その結果によってストーリーが変化する。マルチエンディング方式で、ベストエンディングは5種類、ノーマル及びバッドエンディングは22種類ある。1周するごとにゲーム中に存在する経路のうち、どれくらいの経路を通過したかが分かる「達成率」が表示され、その数字が高くなるごとに新たな選択肢が登場するため、プレイする度にストーリーのバリエーションが増える。何度もクリアする事が前提なので、1回のプレイ時間は2~3時間と比較的短く、また、1度クリアしただけでは登場しないキャラクターもいる。


【総評】
 歌がいい!なにはなくとも歌が最高にいいんだぜー!大藤史氏の歌は『ぼくのなつやすみ』の「この広い野原いっぱい」もよかったけど、本作のテーマソング「季節を抱きしめて」は個人的プレイステーション史上一番のテーマソングと断言しちゃうくらいいい!本作を知ったのはTECH PlayStation付録の体験版CD-ROMに収録されていたプロモーション映像だったけど、もうこの歌に一発でやられてしまい、当時付き合ってたコの着メロに設定してたくらいにいいのだ←恥ずかしい。もうね、イントロ聴くだけであの頃の甘じょっぺえ想い出が走馬灯の様に蘇ったりしてアレですよ?

 『ダブルキャスト』、『季節を抱きしめて』、『サンパギータ』、『雪割りの花』と季節ごとに4作が立て続けに発売されたやるドラシリーズ。前述の通り、『ダブルキャスト』との兼ね合いで本作のみ夏に発売されたが、バラエティに富んだ絵柄と内容の中で、恋愛+現代ファンタジーのストーリーに90年代の主流アニメ絵キャラクターと、本作が最もベタである。これは『ダブルキャスト』と共にまずはアニメファンを取り込もうというセールス的な部分での、最大公約数的な意味合いからだ。なので、絵だけ見てダメな人はダメでしょうな。

 ストーリーにも向き不向きや好みがあるが、個人的にはあまり惹かれなかった。メインヒロインの「麻由」、ガールフレンドの「トモコ」、階下に住む「綺麗なお姉さん」の3人の女性が登場するが、恋愛要素はほとんどなく、現代ファンタジーのストーリーもよくある話だ。1度のプレイ時間が短いため、あまり詰め込めなかったのかもしれないが、このテのゲームはストーリーが肝なので、ここはもう二捻りくらいしてほしかった。また、プレイする度にストーリーのバリエーションは増えるが、それでもディスク1枚目に関してはディテールの違い程度なので、若干肩透かし気味である。とは言え、絵柄やストーリーが人を選ぶのは何もゲームだけの話ではないので、各自自分の好みに素直に従いましょう。

 シリーズの中で最初に開発された事もあり、システムもまだ洗練されてはいない。繰り返しプレイする事が前提であるにも関わらず、フローチャートや達成率のグラフ化がされていないのは不親切だ。攻略サイトによると、達成率を100%にするには50回以上のプレイが必要らしいが、プレイヤーに全ての選択肢のメモを取らせるというのは前時代的であり、不親切と言わざるを得ない。

 では、『季節を抱きしめて』は凡百な美少女アドベンチャーゲームなのかと問われれば、そうではない。当ブログで何度も述べているコマンド選択式アドベンチャーゲームのシステムの行き詰まりから、90年代に入りアドベンチャーゲームの形態は多様化し、デジタルコミックやサウンドノベルといった新たな派生ジャンルを生み出した。デジタルコミックを大幅に進化発展させた中にサウンドノベルのシステムを取り込んだ。


 それまではゲーム本編の幕間を繋ぐ程度の扱いだったアニメーションムービーをオリジナルビデオアニメ並みのクオリティで全編構成するやるドラは、そんな派生型アドベンチャーゲームの集大成とも言えるシリーズであり、その先陣を切って開発されたのが本作である。ゲームのアニメーションムービーが「繋ぎ」程度の扱いでしかなかったのには、技術面やコスト面での問題の他、それがあくまで「ゲーム」だからだ。ユーザーはアニメを見たいのではなく、あくまでゲームをプレイしたいのである。出来の悪いゲームの場合、本編のゲーム画面とアニメのムービー画面の落差がプレイヤーの興を冷ます一因になったり、まずいゲーム本編より力の入ったムービーシーンだけで売れと皮肉を言われるゲームも多かった。一時期「インタラクティブムービー」なんつーものもあったが、結局ムービーを売りにしたゲームで成功した作品はほとんどない。だったらいっそ何度も繰り返しプレイしたくなる様なゲームの本編全部をアニメーションムービーにしたらいいんじゃね?と思ったかどうかは知らないが、それを実現させたのがやるドラだ。

 全編をアニメーションムービーで構成するには、プレイステーションの機能をフルに駆使する技術力が必要だ。そもそも、ムービーが「繋ぎ」程度の時間でしか扱えなかったのは、その容量にある。やるドラではSCEIの開発部門が分社化したシュガーアンドロケッツ(現SCEI)が、その難関をクリアした。そして、全てを高クオリティのアニメーションで表現するのは、『機動警察パトレイバー2 the Movie』や『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 』などの劇場用アニメで高い評価を受けていたプロダクションI.G。更に4作品を一気にシリーズ化というSCEIの強力なプロモーション力が結集し、初めて実現可能となったのである。セールス的には本作のみで約19万本、4作累計では約70万本を売り上げている。この数字はおそらくSCEIの当初予想を下回っているだろうが、1年で4作発売した影響も相応にあるはずで、派生型アドベンチャーゲームの集大成として、ゲーム史に足跡を残したシリーズと言ってもいいのではなかろーか。

 本作は、05年にはプレイステーション・ポータブルに移植された他、09年にはダウンロード販売もされている。また、中古市場では200円前後と比較的入手しやすい。シリーズ自体はアドベンチャーゲームの更なる衰退と共にプレイステーション2以降は廃れてしまったが、その後も多くのSCEI製ゲームに影響を与えたシリーズであり、90年代後半、家庭用ゲーム市場全体が活気に溢れていた最期の時期に発売された意欲的な佳作で切ない思いを体験するとよいよいよいよい(残響音含む)。




Books
『オフィシャルやるドラファンブック 季節を抱きしめて CD-ROMスペシャルデータ集』










【著】murmur's GROUP
【発売】ソニー・コンピュータエンタテインメント
【発売日】1998年7月23日
【定価】2,500円


 SCEIのオフィシャルブック。レイアウトこそあまり整理されていないが、発売元自らが発行しているだけあって、ゲーム本編の映像を惜しみなく使用した台本、キャラクターや舞台背景などの設定画、スタッフインタビューなど、特にビジュアル面での内容が充実している。付属のCD-ROMにはグッドエンディング5種類のセーブデータ、ハイレゾリューション画面の本編312カット、名場面171シーン、拡大できる設定原画集が収録されている。フローチャートが目視できないゲームだけに、セーブデータの価値は大きい。

 そこそこ値の張る定価だが、僕は100円で買いました。攻略本の類は当時定価で買った物もあるけど、当ブログで採り上げる際にAmazonやオークションなんかで叩き売られている物を買う場合も多いので、一部のプレミア品を除けばレトロゲームの攻略本は現在かーなーり安く買う事ができます。それでも、最低一度はクリアして、そのうえで内容やバックボーンをもう少し深く知りたいと思わせるゲームの本しか買いませんけどね。



(C)1998 Sony Computer Entertainment Inc. All rights reserved. Produced by Sugar & Rockets Inc.
※「やるドラ」はソニー・コンピュータエンタテインメントの商標です。

2016/06/11

ミシシッピー殺人事件

【発売】ジャレコ
【開発】トーセ
【発売日】1986年10月31日
【定価】5,200円
【媒体】ファミコン用カートリッジ
【容量】1M
【ジャンル】アドベンチャー




理不尽さ満載!ゲームオーバーの嵐!


【ストーリー】
 セントルイスを出航し、広大なミシシッピー川を下り、ニューオリンズへと向かう豪華客船「デルタ・プリンセス号」。この船には様々な男女が乗り込んでいた。お金持ちの婦人、判事、etc…。その中に世界的に著名な探偵がいた。チャールズ・フォックスワース卿と助手のワトソンである。2人は久しぶりの休暇を優雅な船旅で楽しもうという計画で、この船に乗り込んだのであった。外は爽やかな6月の風が吹き、船のエンジンは快調だった。こんな心地よい日にあんな恐しい出来事が起こり、自分が捜査に乗り出さなくてはならなくなるとは、さすがのチャールズ卿も夢にも思わなかっただろう。

「 いやあ!なんとも今日は爽やかな日ですね!」
「本当だね、ワトソンくん。楽しい旅行になりそうだ。デッキを散歩しながら他の船室のお客さんに挨拶でもしてこようか?」
「 まいりましょうか、先生」
 そんな会話を交わし、2人は自分達の船室を後にしたが…?


【概要】
 オリジナル版は86年にアメリカのアクティビジョン社(現アクティビジョン・ブリザード社)がコモドール64及びAppleII用に開発した『Murder on the Mississippi』で、同年にジャレコがローカライズ移植したのが本作である。助手の「ワトソン」という名前は、オリジナル版では「リージス・フェルプス」という全くの別名だが、これはローカライズに際して日本で馴染みのある名前をと、アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』にあやかってジャレコが独自に変更したものと思われる。尚、本作は『ポートピア連続殺人事件』(エニックス)に次いでファミコンで2番目に発売されたアドベンチャーゲームである。


【ゲームシステム】
 サイドビュー形式のアドベンチャーゲーム。「チャールズ・フォックスワース卿」を操り、ワトソンと共に船内を歩き回って捜査する。乗客達から得られる情報はワトソンにメモをさせる事ができ、このメモを他の乗客に見せて新たな証言を得ていく。ただし、メモは1人につき3回までしか取れないため、4回目からは古いメモが自動的に消えてしまう。加えて、乗客達は同じセリフを1度しか話さないため、重要証言をメモし忘れた場合はクリア不可能になってしまう。入手した証拠品は自室にストックして、後で詳しく調べる事ができる。船内には落とし穴やナイフのトラップもあり、その難易度と理不尽度は非常に高い。 


【総評】
 度々書いていますが、当ブログは定番のクソゲーとして笑い者にするレビューサイトとは目的を異にしているため、できる限り当時の世相や状況を思い出しながら評価しているつもりです。作られた時代を考慮せず、ネット上での評判を元にして安易に「クソゲー」と評するのは、色が着いていないという理由だけでモノクロ映画を小馬鹿にしているのと同じだと思うからです。「ファミコン史上屈指のクソゲー」とも言われている本作に関してもスタンスは変わらない所存でしゅっつーか、あのですね、ここまで偉そうな前口上垂れといてアレなんですけど、ヒドイよね、このゲーム←おい。

 では、何がヒドイのか。まずはシステム面。必要以上に難易度を上げている独特の会話は、登場人物全員が1度話した事は2度と口にしない確固たる信念を持ったコミュ障だらけなので、重要証言をメモし忘れるor上書きして消してしまうと、容疑者を追い詰める事ができずにクリア不可能となり、ゲームオーバー。大事な事なので2回言いましたとか甘えです。ドユコトー!いちいち「あるく」コマンドを選ばないと歩けない事に関しては、時代によってはそれが当たり前だったりもするので、よしとしましょう。これくらいは昔のパソコンゲームではあったあった。でも、その歩くスピードがオリジナル版よりも遅いってのはドユコトー!そして、オリジナル版にはあるコンティニューの廃止。ファミコンで初めてバッテリーバックアップ機能を搭載したのは翌87年発売の『森田将棋』(セタ)なので、この頃はまだ望むべくもありませんが、既に85年には『チャンピオンシップロードランナー』(ハドソン)や『フラッピー』(デービーソフト)がパスワードによるコンティニューを実装しています。つまりは、移植の際に失敗したわけです。誤字脱字まであるし。

 次に理不尽さ。部屋に入った途端にチャールズ卿目掛けてどこからともなく発射されるナイフや、これまたチャールズ卿のみに反応する落とし穴など、トラップの数々。場合によっては本来の被害者を発見する前にチャールズ卿が被害者となり、事件が幕を開ける前にゲームオーバー。ナイフなんて飛んで来るのが分かっていても足が遅いので避けきれず、眉間にサックリ突き刺さってゲームオーバー。これらの罠は誰が何のために仕掛けたのか、ゲームをクリアしても明かされません。ドユコトー!更には攻略本でもなければ一生かかっても分からない様な全く脈略のない手がかりを探さなければならない徹底っぷり。とにもかくにも山の様な理不尽さの前にゲームオーバーの嵐です。

 決定的なのは、オリジナル版自体の出来の悪さ。推理モノのアドベンチャーゲームにおける理詰めでのアリバイ崩しやトリックの解法はほとんどなく、基本的には勘だけが頼りなので、ぶっちゃけどうしようもありません。頼れるのは専門用語でいうカンピューターだけです←ヘボい。理不尽トラップでの即死も嫌ですが、メモの取り忘れによる手詰まりはプレイヤーが気付くまでこれまたどうしようもなく、いたずらに無駄な時間を過ごしてしまいますっつーか過ごしました。

 それでも、全く面白くないかと言われれば、そういうわけでもない。洋ゲーの移植作らしく、固有名詞や会話は日本のゲームにはない独特のテキストで、これがなかなか味わいがあるのです。チャールズ卿とワトソンを除いた登場人物は、船長の「ネルソン」、船員の「ヘンリー」、判事の「カーター」、慈善家の「ウイリアム」、未亡人の「ヘレン」、売春婦(※これはファミコンのゲームです)の「ディジー」、謎の女「テーラー」の7人+被害者の「ブラウン」なんですが、爽やかな初夏の風が心地よい船旅を共にする者同士、彼らはお互いをこう評価し合います。

「ネバダでは彼は能なしとか言われていた様ですね」
「あいつは自分勝手だし、残忍な奴です」
「あっ、あの下品な若い女か。洋服の着方などから分かりますよ」
「卑しい家の生まれですわ。あんな田舎者に何ができるんでしょうね」
「あいつは人間のクズですよ。下品で無教養で信用できない奴ですからね」
「たかが雇われ船員ですしね。彼の様な人の事をお聞きになるなんて侮辱ですわ」
「あれは単なる売女に過ぎません」(※大事な事なので2回言いますがファミコンのゲームです)

 なんでしょうか、もう何人か殺人事件が起こってもおかしくないほど差別と偏見と職業蔑視に溢れる船旅です。実際にはひらがなとカタカナで表示されていますが、全て原文ママです。かえってひらがなで「ばいしゅんふ」とか表記される方がアレです。その売春婦のディジーだけはニューオリンズに住んでいる有名な料理人のおばさんが作るオクラスープの評判のおかげで、嫌悪感は比較的抱かれてはおらず、「若くてかわいい売春婦よ」と褒められています。いや、やっぱ褒めてねえ。にも関わらず、ラストで真犯人を突き止めると、全員が入れ替わりやって来ては、「無罪だと思います」だの「これは明らかな正当防衛ですな」だのと一致団結して犯人の味方をしだします。もうどういうことなんだぜ…。それどころか、「この事件を一番恐ろしく感じたのは○○(犯人)自身でしょ。それをあんな風に言うなんて」だの、「そうだ!おまえ、なんて勝手な事を!(中略)それなのに酷いじゃないか」とこちらが批難される有様です。ネットでよく見ますね、こういう掌返し。ネットってこわい(違)。いやー、20年ぶりくらいにコントローラーを床に叩き付けましたネ!いろいろとおしえられることのおおかったゲームだったな…。



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