2022/09/25

探偵神宮寺三郎 時の過ぎゆくままに



【発売】データイースト
【開発】データイースト
【発売日】1990年9月28日
【定価】4,200円
【媒体】ファミコン用カートリッジ
【容量】1M+64KRAM
【ジャンル】アドベンチャー



ハードの限界を逆手に取った心温まる秀作


【ストーリー】 
 ある夏の日、新宿中央公園で1匹の犬を見かけた神宮寺は、昔の記憶を思い出す。付き合いの長い熊野警部が、半ば無理矢理に預けてきた元警察犬の「ズタ」と、頼れるアシスタント・洋子が歌舞伎町で見つけた迷子の少年「健一」。時の流れは記憶をセピア色に変えたものの、少年と犬が残してくれた思い出は未だ変わらない…。
 新宿中央公園で偶然出会った熊野警部に、神宮寺は1年前に解決したある事件について語り始める…。


【概要】
 データイーストのハードボイルドアドベンチャーゲーム『探偵神宮寺三郎』シリーズ第4作。本作では、主人公「神宮寺三郎」と助手の「御苑洋子」がベテラン刑事の「熊野参造」に、1年前に起きた事件を話すという形で、現在の場面ではカラー、回想中の場面ではセピア色の画面で物語が進行する。当初、『神宮寺三郎』シリーズは本作で終了する予定だったため、シリーズ集大成的な高い完成度となっている。
 本項では『探偵神宮寺三郎 アーリーコレクション』収録作品として、収録されたオリジナル版(ファミコン版)について記述する。


【ゲームシステム】
 新宿で探偵を営む神宮寺三郎を主人公にしたオーソドックスなコマンド選択式アドベンチャーゲーム。捜査に行き詰った際はシリーズ恒例「タバコ吸う」コマンドでヒントを得られる。関東明治組の大親分「風林豪造」を介して「細川信子」の絵画捜索依頼を受ける神宮寺。一方、洋子は迷子の「佐田健一」の母親を探す。神宮寺と洋子、それぞれの捜査が交錯する形式は、後のシリーズに搭載されるザッピングシステムの礎になっている。


【総評】
 それは、殺人もなければ密輸もない、どこの家に起こってもさして珍しくない家庭内の微妙なわだかまりや家族間の人間関係。そして、小さな体には重過ぎる病を抱えた少年と老犬の物語。過去のシリーズの様な大きな事件ではないが、家族間の問題だからこそ、自分の保身ではなく、家族を想っての偽証であったりするところが、利害関係による人間同士の繋がりよりも厄介な部分だ。「嘘をつかない人間はいない」。こうした登場人物達の心情を丁寧に描いており、それが物語に奥深さを与えている。



 当ブログで何度も書いている様に、コマンド選択式アドベンチャーゲームは、他の作品と差別化を図るのがなかなか難しく、各メーカー様々な工夫をしていたが、本作では「過去の事件を語る」という設定で、神宮寺と洋子、2人の異なる視点を違和感なく1つの物語にまとめている。また、ファミコンの同時発色数の少なさを逆手に取り、ゲーム進行の9割方がセピア色のみという大胆な手法も、これまた見事に違和感なく受け入れられる。唯一の難点は、「タバコ吸う」コマンドが今回はあまり役に立たない事くらいだ。無関係と思われた2つの事件が1つの真実に収束するクライマックスでは、シリーズ1作目『探偵神宮寺三郎 新宿中央公園殺人事件』のオープニング曲をアレンジしたBGMとの相乗効果で非常に盛り上がる。

 

 これまでのシリーズがあったからこそ、ショッキングな事件の起こらないこういった「小さな物語」が逆に光り、これこそが神宮寺や洋子の根幹を成す「探偵業」なのだと思う。前述した様に、本作を最後にシリーズはしばらく途絶えるが、6年後にシリーズ第5作『探偵神宮寺三郎 未完のルポ』で復活し、現在も多くの続編が作られている。事件としては地味ながら、本作がファミコン時代の集大成であり、1度はこれを以てシリーズが終わっていたかもしれないと考えると、最高のエンディングと併せ、実に「神宮寺らしい」人情味に溢れた秀作であると言えよう。


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