【発売】データイースト(普及版1,500円シリーズ:メディアリング)
【開発】データイースト
【発売日】1996年11月29日(普及版1,500円シリーズ:2000年10月19日)
【定価】5,800円(普及版1,500円シリーズ:1,500円)
【媒体】プレイステーション用CD-ROM
【ジャンル】アドベンチャー
社会悪とその連鎖を描いた6年ぶりのシリーズ
【ストーリー】
ある日、神宮寺三郎の探偵事務所に一通のエアメールが届いた。差出人は飲み友達の池上で、中身はコインロッカーの物と思われる鍵だった。行方不明者の捜索、大麻の売買、殺人事件…その後の依頼を次々と追ううちに、池上に託された鍵の謎が解けていく。池上が書いたという未完のルポとは何か?事件の背後に立つ組織の存在は?捜査の行く手には、巧妙に仕掛けられた罠が数多く待ち構えている…。
【概要】
データイーストのハードボイルドアドベンチャーゲーム『探偵神宮寺三郎』シリーズ第5作。ファミコンで発売された前作『探偵神宮寺三郎 時の過ぎゆくままに』から実に6年ぶりとなる本作は、ハードを一世代飛び越えてプレイステーションとセガサターンで同時発売された。主人公「神宮寺三郎」だけでなく、助手の「御苑洋子」、ベテラン刑事の「熊野参造」、本作のゲストキャラクターであるライター「与野恭介」の4人をザッピングして多角的にストーリーを追える他、アニメーションムービーや3Dシーンなど、当時のトレンド要素を取り込んでいる。本作はライターの斉藤竜也氏の持ち込みシナリオを原案としており、当時はもとより現在でもゲーム媒体としては珍しく「社会悪」に突っ込んだストーリーが特徴だ。
【ゲームシステム】
新宿で探偵を営む神宮寺三郎を主人公にしたオーソドックスなコマンド選択式アドベンチャーゲーム。捜査に行き詰った際はシリーズ恒例「タバコ吸う」コマンドでヒントを得られる。ゲームオーバーはなく、捜査がある程度進むとセーブ画面になる。セーブファイルは8つ用意されており、セーブ画面終了後にザッピングのプレイヤーを選択できるため、例えば神宮寺で一通りクリアした後で、洋子や熊さんの視点で捜査を進める事もできる。特に与野の視点では、神宮寺に依頼が舞い込む前の状況から始まるため、ストーリーを深く知るためにも並行もしくは後からプレイする事をオススメする。本作では、難解な謎に挑むというよりも、じっくりとストーリーを楽しむスタンスが正しいと言えよう。
【総評】
政府開発援助(ODA)の名の下に、新たな公害問題を第三国に輸出する日本。自然と共存する生活を失い、職を求めて来日する外国人労働者。国内の産業廃棄物処理施設を地方に押し付ける都会。土地と生活を失い、出稼ぎに出る地方労働者。都会への夢を法外な値段で売る闇ブローカー。大都会の閉鎖性と新しい階級システムに夢破れて生まれる失意、貧困、差別。そうした者を救う受け皿を持たない未完成な大都会に繁茂するドラッグ、暴力、人身売買、人体売買、少年犯罪、外国人犯罪、過激なナショナリズムの台頭。全てを犠牲にそそり立つ巨大なビル群…本作が取り扱うこれらのテーマとその連鎖は、発売から20年経った現在でも何一つ解決されていないばかりか、その悪循環が更に複雑化、表面化している事に改めて気付かされる。東南アジアにある「ムルソン共和国」を発端とした問題から、物語はやがて臓器不正移植へと連鎖する。臓器不正移植の問題に関しては、一時期の沈静化から一転、インターネットが発達した近年に多くの事例が表面化したのは記憶に新しい。
ゲームシステムにおいては、久しぶりの続編であり、メディアもカートリッジからCD-ROMに変わった事で、新要素を盛り込もうという意欲は伝わってくるが、一部が消化不良を起こしている感は否めない。例えば、ザッピングでは、洋子視点の際に神宮時が登場する場面があるのだが、神宮寺視点の際にその場面は出て来ない。また、粗いポリゴンで描かれた3D視点の「尾行聞き込みシステム」は単なる鬼ごっこでしかなく、必要性が感じられない。幸い、このシステムは1キャラクターにつき1~2回しか出て来ないが、「コマンドを総当たりしていけばいずれクリアできてしまう」という、コマンド選択式アドベンチャーゲーム全般のシステムの行き詰まりから一時期休止していた本シリーズの苦悩が見え隠れする部分だ。
そして、本作の最たる「違和感」は、当時の主流だったアニメ風のキャラクターデザインだろう。ムービーシーンもこのアニメ風のキャラクターで描かれている(個人的には今見るとこれはこれで味があっていいとも思うのだが…)。次世代機での発売という事で、シリーズのパッケージデザインやイメージイラストを描いているイラストレーターの寺田克也氏によるグラフィックを期待したファンも多かったはずであり、その見た目で敬遠した旧作のファンからは批判を浴びた。とにかく本作のレビューを見ると、やはりこのキャラクターデザインに対する違和感の声が大きく、秀逸なシナリオにまで言及されていないケースが多いのは残念である。
だが、本作での消化不良部分は、シリーズ最高傑作であり、アドベンチャーゲーム史上珠玉の名作との評価も高い次作『探偵神宮寺三郎 夢の終わりに』で全てが徹底的に改善される事となった。ザッピングシステムは矛盾をなくし、オーソドックスになっても不必要なシステムは採り入れず、グラフィックは全て寺田タッチへと変わった。本作は6年ぶりのブランクを感じさせまいとして、当時の主流になびいた一部の要素がしっくりこなかっただけであり、データイーストもファンも「流行りがどうあれ神宮寺は神宮寺というスタンスが一番」と気付いたのだった。そういう意味では、本作の消化不良部分も意味があったと言える。キャラクターデザインにしても、それ単体で見る限り決して悪いものではない。単に作風と合っていなかっただけなのだ。
一方で、本作から以降のシリーズに引き継がれた要素も数多くある。ハードボイルドタッチの本編とは真逆の、マウス一発で描かれた様なグラフィックが特徴の番外編「謎の事件簿」もそのひとつだ。洋子の壊れっぷりがナイス。また、本作が初登場となる「バーかすみ」の姉妹「天沼かすみ」と「天沼まなみ」、関東明治組の若頭「今泉直久」、淀橋署の鑑識官「三好志保」(モデルは本作のグラフィック担当者で本名も同じならお顔もそっくりである)、同じく淀橋署の刑事「小林勇介」の5人も、以降のシリーズではレギュラーとして登場する。
ムービーシーンでは各キャラクターに声が当てられており、以後2~3作おきに担当声優が交代しているが、個人的に歴代神宮時の声は本作と次作を演じた岸野幸正氏がベストだと思っている。シブくていいんだ。
Books
【著】ファイティングスタジオ編集
取り立てて特徴のないオーソドックスなガイドブック。中古でものすごーく安かったので買ってはみたものの、まなみのスペシャルグラフィックが小さく載っている以外にめぼしい情報はなかった。本作の様にゲームオーバーにならないアドベンチャーゲームのガイドブックならば、せめてイメージイラストやスタッフインタビューなどの要素を入れる良心があってもいいのではなかろーか。ファミコン時代の同社のガイドブックシリーズからほとんど進化していない装丁やレイアウトデザインで、内容も「ただゲームをプレイした道程をなぞっただけ」という96年当時からしても時代に逆行した作り。100円以下ならコレクターアイテムとして持っていてもいいかもしれないが、資料性はほとんどない。
『探偵神宮寺三郎 アーリーコレクション』同様、後にメディアリングから「普及版1,500円シリーズ」として廉価版が発売されている。また、中古市場でも200円前後と入手しやすい。プレイステーション版とセガサターン版どちらも内容は同じなので、手持ちのハードでじっくりとこの社会派ドラマと人間味豊かなセリフの数々を体験してみてほしい。取り扱っているテーマが古さを感じさせないのは複雑なところではあるが、終わった後できっと考えさせられる何かが残るはずだ。
Books
『ハイブリッド完璧攻略シリーズ4 探偵神宮寺三郎 未完のルポ 完全ガイドブック』
【著】ファイティングスタジオ編集
【発売】双葉社
【発売日】1996年12月20日
【定価】900円
取り立てて特徴のないオーソドックスなガイドブック。中古でものすごーく安かったので買ってはみたものの、まなみのスペシャルグラフィックが小さく載っている以外にめぼしい情報はなかった。本作の様にゲームオーバーにならないアドベンチャーゲームのガイドブックならば、せめてイメージイラストやスタッフインタビューなどの要素を入れる良心があってもいいのではなかろーか。ファミコン時代の同社のガイドブックシリーズからほとんど進化していない装丁やレイアウトデザインで、内容も「ただゲームをプレイした道程をなぞっただけ」という96年当時からしても時代に逆行した作り。100円以下ならコレクターアイテムとして持っていてもいいかもしれないが、資料性はほとんどない。
(C)1996 DATA EAST CORP.
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