2015/02/20

マザー

【発売】任天堂
【開発】任天堂、エイプ、パックスソフトニカ
【発売日】1989年7月27日
【定価】6,500円
【媒体】ファミコン用バックアップカートリッジ
【容量】3M+64KRAM
【ジャンル】ロールプレイング




ファミコンが初めて文学に近づいた名作


【ストーリー】
 1900年代はじめの事です。アメリカの田舎町に黒雲の様な影が落ち、ひと組の夫婦が行方不明になりました。夫の名はジョージ、妻の名はマリア。人々は嘆き悲しみましたが、神に祈る以外にできる事はありませんでした。その願いが通じたのか、2年ほどしてひょっこりジョージが家に戻ってきました。しかし、どこへ行っていたのか何をしていたのかについては誰にも話そうとしませんでした。不思議な研究に没頭するジョージの姿を見て、いろいろな噂が飛び交いました。しかし、いつしか時が過ぎ、人々の口に噂がのぼる事もなくなりました。ただ、人々が忘れていないのは、妻のマリアがとうとう帰って来なかった事です…。

 そして1988年―。

 大変だ!大変だ!何が大変かって?ミニーの部屋では電気スタンドがガタガタ動き回っているし、ミミーの部屋ではミルク飲み人形がクルクル飛び回っているんだから、これ以上大変な事があるかい?まだ小さな妹達を守る事はぼくの役割だろう?そういうぼくだって12歳の子供だけど、ウチには男はぼく1人。3人のレディを守らなければならないんだ。そうそう、ママはどこに行ったんだろう?ふー。なんとかウチの中も静かになった。おろおろしていたママも落ち着いている。そうだ!パパに電話しよう。「それはラップ現象だな。ひいおじいさんが超能力(PSI)の研究をしていたはずだ。物置を探せば何か分かるかもしれない」やっぱりパパは頼もしいや。だけど、少しドジなのは、物置の鍵をどこに置いたか忘れてたって事。でも、ぼくにはすぐ分かった。物置の中にはひいおじいさんの日記とか、けっこう役に立ちそうな物があった。えっ?何に役立つかって?ぼくは決心したんだ。ぼくの力でこの不思議な出来事の原因を突き止めて、ママとミニーとミミーを守るんだってね。


【概要】
 コピーライターの糸井重里氏による任天堂初のオリジナルロールプレイングゲーム。それまでの「剣と魔法の世界」を舞台にしたトップビュー形式のRPGとは異なり、現代のアメリカを舞台に、建物や地形など、全てのグラフィックがキャラクターに合わせた等身大サイズで描かれているのが特徴。また、ユーモアあるセリフ回しや、ムーンライダースの鈴木慶一氏と任天堂主力ゲームの音楽を手がけた田中宏和氏による美しいサウンドが新鮮な、各所に気遣いが見られる丁寧に作られた作品。キャッチコピー「名作保証」、「エンディングまで泣くんじゃない。」は糸井氏ではなく、コピーライターの一倉宏氏によるもの。


【ゲームシステム】
 一大RPGブームとなった88年から90年にかけて各社から発売されたゲームは、その多くが『ドラゴンクエスト』(エニックス)タイプであり、和製RPGとしてのシステムを作り上げた一方で、あまりにも一辺倒過ぎるきらいがあり、それはもう雨後のタケノコの様に似た様なRPGが毎月毎月ニョキニョキ発売されていた。そんな中、本作は「ゲームだからと諦めていた部分」に可能な限り挑戦した意欲作で、例えば、同じセリフを言うキャラクターがほとんどいないとか、全ての地形と建物が等身大で地続きになっているとか、敵を倒すとどこからともなくお金が入ってくるのではなく「パパ」から銀行に振り込まれるとか等々…。

 そういう「お約束」を打ち破った画期的なRPGなのだ。

 また、サウンド面にも力が入っていた。既に一部のメーカーでは自社製品のバンド活動を行うサウンドチームを発足させていたが、それはあくまでコアなファン向けだったのに対し、『マザー』は一般層に向けた作品を目指した事で、「ピコピコ音」と表されていたファミコンサウンドの実力を広く周知させた。行く先々で奏でられる「8つのメロディ」を集める事によって物語を進めるのだが、8つ全てが揃った時、プレイヤーは美しくも切ないサウンドに聴き入るであろー。なんちゃって。どうでもいいけど、未だにゲームの音楽を「ピコピコ」って言う人いますな。もう21世紀なのに。

 ゲーム開始時のネームエントリー画面では、プレイヤーと仲間の名前の他に、「すきなたべもの」を入力できるのも忘れてはならないステキポイントだ。要は家で「ママ」が作ってくれるヒットポイント回復アイテムの名前で、単にゲームを進めるだけなら特にどーって事はないのだけれど、「HPを回復する」というRPGでは当たり前の「工程」を、家に帰ると母親が自分の好物を作ってくれる子供の「根っこ」の部分として見事に表現している。これまでのゲームではバッサリ切り捨てられていたこういう部分が大切にされているのも、本作が他のRPGとは一線を画すところなのだ。


【総評】
 正直、最初の7~8時間は「お使い」で、「ポルターガイスト現象の謎を解くために出かける」っつー動機も希薄だ。敵とのエンカウント率もバランス調整が甘いのか極めて高く、戦闘での「オート」も賢くない。でもでも!中盤からは畳みかけるイベントと素敵なサウンドの連続で、序盤で投げ出した人は人生を1ミリくらい損しているかも!実際、バリバリのゲーマーにはもどかしく感じる部分もあるだろうけど、それでもキサマはこのゲームをやらないのかー!と思う。たまには剣と魔法の世界じゃなく、ボーイ・ミーツ・ガールなお話を体感するのもいいもんですよ。なんだかんだ言いながらも終わった後にはきっといい物語を読んだ後の様な、爽やかでちょっと切ない読了感に満たされると思うのだ。

 この『マザー』は僕が初めてお小遣いを貯めて買ったゲームで、確かファミコン通信(現週刊ファミ通)の記事でいきなりC級コピーライターのインタビューが2ページだったかに掲載されていて、その隅に開発中の画面写真が3点ほど載っていた。それまでRPGをプレイした事なかったのに(時間がかかって面倒臭そうだったので『ドラクエ』さえスルーしていた)、その記事と僅かなゲーム画面だけでピンと来て、1年がかりでお小遣いを貯めた。1年かけてもソフトの値段には及ばなかったけど、母が足らない分を出してくれて、発売日に近所のディスカウントショップへ買いに行ったのを今でも覚えている。ゲームを買うのにあんなにワクワクしたのはあれが初めてだったなー。

 『マザー』の人気は当時それほど高くなかったけど、94年にスーパーファミコンで発売された続編『マザー2~ギーグの逆襲~』で再評価された印象があるので、現在の中古相場では、カセットのみだと1,500円前後、完品では3,000円前後とそれなりのお値段。

 03年には『マザー1+2』としてゲームボーイアドバンスに移植されてはいるが、レーティング審査により、一部のグラフィックやセリフが変更されている。例えば、敵キャラクターの「カラス」が手に持つタバコが消えていたり、セリフが変更になるなど、独特のセンスが消されているのは残念なところ。他にも、音楽や効果音、果ては演出の部分にも変更があり、僕にとっては違和感ある移植になっているため、売ってしまった。未プレイの方はぜひオリジナルのファミコン版をオススメしたいのでココ読んでる人は全員死ぬまでにはプレイする様に!あと、「ほぼ日刊イトイ新聞」内にあるコンテンツも充実しているので、合わせて読むと幸せになれるヨ!




Music
MOTHER オリジナル・サウンド・トラック デジタル・リマスタリング』





【作曲】鈴木慶一、田中宏和
【編曲】鈴木慶一、田中宏和、David Bedford、
    斉藤毅、Michael Nyman
【歌】Catherina Warwick、Jeremy Holland-Swmith、
   Jeb Million、Louis Philippe、Jermy Budd、
   St.Paul's Catthedinal Choir
【発売】ソニー・ミュージックダイレクト
【発売日】2004年2月18日
【定価】2,500円
【収録時間】約76分

 前述した様に、『マザー』では音楽にも力を入れて作られており、サントラCDも通常のゲームCDとは大きく異なっている。鈴木氏がほぼ全ての編曲を行ったうえで歌詞が付き、ロンドンの歌手を起用したフルアレンジの「洋楽」として発売された異常に完成度の高い名盤で、キサマはこれを聴かないのかー!という気すらする。メインテーマ「EIGHT MELODIES」はなんと、92年に発行された『文部省検定済教科書 平成4年度小学校6年音楽』(教育出版)っつー音楽の教科書にも採用されたとの事。

 89年にCBSソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)から発売されたオリジナル版はカセットテープで持っていて、熱出して学校休んでる時に母が買って来てくれたこれまた思い出の楽曲。例によってテープがベロベロになるまで聴き倒してダメになったため、このデジタル・リマスタリング版を後年買った次第。オリジナル版と異なる点は、ゲームオリジナル音源メドレー「THE WORLD OF MOTHER」の構成が若干違うのと、『マザー2』のテーマ曲「SMILE AND TEARS」が加えられている点。とにかくみんな聴こう!

【収録曲】
01.POLLYANNA (I BELIEVE IN YOU)
02.BEIN' FRIENDS
03.THE PARADISE LINE
04.MAGICANT (INST.)
05.WISDOM OF THE WORLD
06.FLYING MAN
07.SNOW MAN (INST.)
08.ALL THAT I NEEDED (WAS YOU)
09.FALLIN' LOVE,AND (INST.) 
10.EIGHT MELODIES
11.THE WORLD OF MOTHER (EXTENDED VERSION)
12.SMILE AND TEARS (DEMO TRACK)




Books
ENCYCLOPEDIA MOTHER マザー百科』
 










【著】エイプ
【発売】小学館
【発売日】1989年10月20日
【定価】780円

   
 糸井重里責任編集の公式ガイドブック。通常の攻略本とは違い、登場キャラクターや場所を美しい写真で紹介した「旅のガイド本」的な作りになっているのが特徴。ゲームの世界観を更に広げるこういった作りの攻略本も当時としては画期的で、キサマはこれを読まないのかー!とさえ感じる。吉田戦車の四コママンガや、橋本治、いとうせいこう、宮本茂(本作プロデューサー)、鴻上尚史、井上陽水、久美沙織(本作ノベライズ版著者)、井崎脩五郎、すぎやまこういち、南伸坊(本作キャラクターデザイン)、天野祐吉、毛利公信(毛利名人ですな)といった著名人の寄稿も見所。これまた03年に新装復刻版が発行されているので、みんな読もう!と思ったら、復刻版でさえ現在7,000円前後のプレミアが付いててビックリ。





Books

MOTHERのすべてがわかる本』










著】ファミコン通信編集部責任編集
【発売】アスキー
【発売日】1989年10月10日
【定価】520円



 ファミコン通信編集部責任編集の「すべてがわかる本」シリーズ。読み物として充実している『マザー百科』に対し、こちらはフツーの攻略本だ。手書きイラストによるマップからアイテムリストやPSIの効果一覧など、実用性としてはこちらの方が高い。また、完成度こそ高くないが、立体化されていない4種の敵キャラクターを編集部で新たに立体化している心意気がよし。ちなみに、同編集部はゲーム付属の取扱説明書の編集も行っている。

 他にも久美沙織氏によるノベライズ版『MOTHER -The Original Story-』(新潮社)も持ってたんだけど、だいぶ前に売ってしまった。さっきオークション見たら定価の10倍以上の値段が付いててビビる。




Figure
MOTHER フィギュアコレクション1』
MOTHER フィギュアコレクション2』
MOTHER2 フィギュアコレクション3』










【発売】バンプレスト
【発売日】2010年8月、2011年2月
【備考】プライズマシン専用景品


 
 南伸坊氏によってデザインされた『マザー』の登場キャラクターは、プレイヤー、仲間、敵キャラクター、果てはアイテムや建物までもが立体化され、パッケージ裏や取扱説明書をはじめ、多くの誌面で目にした。これらは正体不明のモデラーである鳥取県出身のトットリ氏が1人で10ヶ月かけて紙粘土で製作したもので、当時の僕は同級生と「こうもりさん」や「ロープ」なんかを真似して作り、泥人形の山を築いた。ハヤシダくん、見てる?そして時は過ぎ、10年8月。バンプレストより7ヶ月連続でクレーンゲームのプライズマシン専用景品として突如フィギュア化!

 プレイヤーの「ニンテン」、仲間の「アナ」、「ロイド」、「テディ」(全てデフォルト設定名)、お隣の「ピッピちゃん」、敵キャラクターの「スターマン」(これのみ『MOTHER2 フィギュアコレクション』シリーズからの出典)が大登場!21世紀になってまさかの立体化っつーか複製化! 当然、ぎょえー!欲っしぇえー!と思ったが、クレーンゲームは金さえ出せばというわけでもなく、加えてその頃は人生で3番目くらいに貧乏だったので、遠い目をして灰色の毎日を送っていたら、弟が「兄ちゃん、これ好きやろ?」とコンプリートセットをプレゼントしてくれたのだ!兄の僕とは違ってなんとよくできた弟だ!

 フィギュアは全高13cm以上とそれなりに大きく、塗装も説明書を見る限りオリジナルと寸分狂いない感じの高いクオリティ。ニンテンのはみ出したシャツやテディのリーゼント、ピッピちゃんのズレた靴下なんかもバッチリ再現されていて嬉しい。プライズ景品は基本的に再販されないためか、今では仲間3人のセットが15,000円前後で売られているけど、こいつらは墓まで持って行こうと思ってます。たまに遊びに来る3歳の姪っ子はピッピちゃんがお気に入りの様子で、「これはパパが買ってくれたんだよー」と弟の偉大なる功績を教えている最中である。カセットやCDは母が、フィギュアは弟がと、こと『マザー』に関しては家族の協力あってのもの。ありがてえ、ありがてえ、小便チビりそうじゃー!←台無し。




Goods
MOTHER1+2 け~たいくり~な~









【発売】ユージン
【発売日】2003年11月
【定価】100円


 ユージン(現タカラトミーアーツ)からカプセル玩具用に発売された携帯電話用ストラップクリーナー。03年に発売された物だが、こないだTwitterのフォロワーさんから未使用品のテディをいただいたのだ。ドット絵とセリフがナイス。全10種。



(C)1989 Shigesato ITOI (C)1989 Nintendo

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